娘と二人、こっちに来た当初お世話になった中国人シェフを訊ねた。まだ思うような仕事ができなかったとき、唯一「あなたは素晴らしい料理人だ」と励まし続けてくれた方。彼は今独立して自分の店を持っている。事あるごとに「困った時は尋ねなさい」と優しく声を掛けてくださった。
外は生憎の雨。足元のぬかるむ中、何でもない風景をぼんやり眺めていると、この街のどこに何があるのか、まだちっとも知らなかった頃のことを思い出した。
3年半を過ごした街、「Köln」。ドイツ4大都市のひとつ。ごみごみしていて、外国人も多く、怖い地域も多い。世界的ゲイの街としても有名だ。ドイツのどの街でもそうだが、この街にも広い緑地帯がある。街の中に残された自然公園や広大な芝生の広場。僕はこの人と緑の融合性にひどく感心していた。
ドイツに来た当初、13歳だった娘ももうじき16歳。ドイツではもうビールを飲んでもいい歳だ。もう少女ではなくなりつつある娘を、ほんの少し眩しげに眺める。ほんと、大きくなったなぁ…と思う。ドイツ語も普通に話し、平気でドイツ人の中に入っていくんだから、うらやましい成長だ。
中国人シェフの「陳さん」の店。久しぶりの再会に大喜びし、どんどん料理が運ばれてきた。故郷のおふくろの味「揚げパン」が前菜に、焼き餃子、唐揚げ(大盛り)、カレーライスに揚げだし豆腐に天重。彼の作る日本料理は日本人以上に日本人らしいところがあり、懐かしさがある。ものすごく懐の広い人。でも量が多すぎて食べきれず、お持ち帰りに。久しぶりに食いすぎたぁ…。
しかもお代は受け取ってくれなかった。最後にいただいた自家製の「赤酒」で乾杯。中国の赤米で作ったその酒はほんのり甘くて美味しかった。
そういえば昨日も仕事の後、店の従業員とオーナーとで夜中まで飲んでいた。「好きな店の酒を飲め」と、珍しいオーナーの大盤振る舞いでもてなされ、みんなからも祝福をいただいた。
出会いの数だけ「感謝」があります。この街で得られた感謝を忘れない。明日には離れてしまうこの街を、今日まで何でもなかった風景をいまは噛みしめるように眺めている。
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