2011年3月17日木曜日

die Entrüstung

お店は今日も満席でした。多くの方が僕のお寿司を注文し、喜んで満足して帰って下さる。ある方は「ミュンヘンやハンブルグ、ベルリンで食べたどの寿司よりもおいしい」と絶賛して下さる。ありがたく、光栄にそのお言葉を頂けばいいのに、この頃の僕はそれを素直に受け入れられない。


満席で座れなくて文句を言う人。酔っぱらって大声で笑う人。持ち帰りは受けてないのに、自分を「常連客なんだからやってくれてもいいだろ」と憤慨するおかしなひと。なんだかんだにぎやかに色々な出来事が毎晩店で繰り広げられる。大量に通ってくるオーダーに、右ひじの関節炎は悲鳴を上げている。コルセットをしていても殆んど意味がないくらい、この頃は状態が良くない。
それでも自分が引いたハードルを下げることなく、クオリティーだけは維持し、また向上させんと懸命になる。


 そこに舞い降りる疑念。今の日本を思えば、こんな風に我関せず…といった感じで酒を飲んで馬鹿騒ぎはできない。俺はここで何やってるんだろう…、なんて考えてしまう。なんでこんな風に無神経に騒いでる連中相手に、自分の肘の関節炎の痛みをこらえてまで必死に仕事しなくちゃならんのだろう…。


でもこんな風に考えるのは料理人としては失格かな。海外で生きていこうと決意したはずの僕の根底をたやすく揺さぶっている。

2011年3月16日水曜日

2011年3月15日火曜日

2011年3月14日月曜日

"Pray for Japan"



言葉を失う映像が流され続け、不透明な言葉での政府会見が繰り返されている。それでも世界が一心に日本への支援と救済の手を懸命に差し伸べているその事実を、誇りに思いたい。"人間”で良かったと…。

2011年3月13日日曜日

die Geldspende

大変なことが起こった。かつて阪神淡路大震災の時もそうだったけれど、自然災害そのものを喰い止めることは不可能に近い。ただそれに備えることと、それにどう対応するかだ。それを怠ったために引き起こされる災害は、甚大なる人災でしかない。

今は僕にできることは至極限られている。朝、店に向かう道すがら、何ができるだろう…と自問。救援物資や義援金”Geldspende”を募ることができないか。ここKielでは長く日本との友好を結んでいる都市でもある。戦争中もその友好は途切れることなく、今年で150周年という。店には連日多くのお客様が来て下さる。その方々に訴え、被災された方々への何かの力添えができないか。それをオーナーに提言したら、同じことを考えていたという。早速義捐箱を設置し、オーナーと二人、まずは心ばかりを募金。

するとニュースを聞きつけた方は電話で我々親族のことを心配し、また心をねぎらうコメントを下さったり、中には直接店に出向いて声をかけて下さったり。


設置した義捐箱。実は今日の営業だけでも200Euroくらいの義援金が集まりました。この一歩は小さいけれど、大きな力となってくれることと思います。

被災された方々、今もこの寒さの中、多くの不便を強いられていることと思います。しかし、世界は今まさにこの震災に力を一つして動きはじめています。あきらめないでください。お願い致します。

2011年3月8日火曜日

die Einladung "WEINSTEIN"

晴天に恵まれた今日、約一カ月ぶりに完全フリーの休日がやって来た。TV撮影やら日本酒試飲会など、実際の営業とは違う仕事がらみの日が続いていただけに、まるっきり店を離れての一日はほんとに久しぶり。
実は先月26日が結婚記念日だったのをすっかり忘れていた。ここはちょっと奮発して美味しいものでも食べに行こうと決意。
ここKielにもグルメな高級レストランは3件ある。その内の一軒、フランス料理で有名な星付きのレストラン "WEINSTEIN"。オーナーでありコックも務めるSylvain Awolin氏は二回ほど僕の料理を食べに来てくれて、すっかり気に入って下さっていた。前回「次の休みの日にはぜひうちに食べに来なさい」と熱心に誘ってくれてもいたので、ちょっと高いけれど(かなり高いけれど…)、清水の舞台から飛び降りるつもりで行ってきたわけです。


お店は奥さんがホールをまかない、旦那さんが料理を担当。そんな家族経営のアットホームな感じのレストラン。常に200種類のワインのストックがあり、それに見合うコーディネートされたフランス料理を出されている。月替わりのコース料理は49Euroのみ。もちろんアラカルトもある。魚介類を使った料理が割に多かったかな。ドイツに来てから必要なまでの肉料理のオンパレードに辟易していたからこれは楽しみだ。

席についてすぐにChefが挨拶に来てくれた。「今日は来てくれてありがとう。お楽しみ料理を用意したから、是非楽しんでいって」とメニューをみることもなく食事がはじまった。

まずは先付けにムール貝のサラダ。あっさりとマリネした小さなサラダ。このシンプルな味付けに僕はまず感心した。余計な味付けが邪魔したり、塩加減を間違えてたりと言うのが多いだけに、この後お料理にもかなりの期待が持てるスタートです。

二品目、3種の前菜。左から"サーモンとパパイヤのタルタル” サーモンとパパイヤが合うことの驚きと、その組み合わせに嫌みなく絡み合うイタリアンパセリの風味が絶妙。中央は"鱈とカニの擦り流し”上に乗るのはレモングラスに刺してグリルしたエビ。スープはカニの風味が良く効いておりコクもあり、しっかりと味付けをしていながらもくどすぎないうまさ。鱈の身も入っており、淡白なこの身が強いスープの風味をうまく舌の上でまとめあげてくれる。エビはエビの肉汁とバター、香辛料で風味付けしており、少しタイ風の仕上がり。右は仔牛のスライスにマグロのソース添え。仔牛にマグロが合うことにこれまた驚いた。うまく味がからんでる。

メイン料理の”ラムのもも肉のグリル” ドイツでは豚肉の足肉を使った料理”ヘクセ”が有名だが、ラム肉で食べるの初めて。ソースはデミグラスソース。ドイツ料理と違うのはこのスープが実に澄んでいること。重そうだがくどくない。雑味がない…と言った方が良いかな。妻と娘には少し量が多かったけれど、僕と息子はぺろりと平らげた。
でもまぁ、大した量だ。しかし見た目、盛り付けも丁寧だし、味付けも絶妙。これだけきちんとしたフランス料理を食べたのは、京都にいる時に(かれこれ15年くらい前の)結婚記念日に食べに行ったERGO BIBAMUS以来ではないか。

そして最後にデザート。カラメルのアイスクリームに苺のムース。ムースの上には苺とバジルのシャーベットがトッピング。苺とバジル…これが合うんです! カラメルのアイスはどこか鼈甲飴の風味を彷彿させてくれます。

コース料理は最後の最後まで細やかな心づくしが感じられ、家族共々に大満足。深い感銘すら覚えました。

料理を終えてChefが再び挨拶に来て下さった。
「料理の内容に大変満足しています。またあなたの仕事から多くのことを学びました」と奥さんに通訳してもらった。
「私はあなたの仕事を見てとても感心させられたんですよ。このKielであなたのようにプロフェッショナルに仕事をされる方は本当に稀なんです。そのことに私も感銘を受け、あなたに感謝している。今夜のディナーは私からのささやかな感謝の気持ちです」
そういって代金は取らなかった。僕なんかよりもずっと懐の広い、深い人だなぁ…と僕も感動した。こういう方と出会えるのも、今までの積み重ねか。
これからの自分の仕事も、さらに襟を正して精進していかなくては。そんな事を強く感じました。

2011年3月7日月曜日

schönes Wetter

schönes Wetter なので、また休憩時間を利用して海まで散歩してみた。長い冬、こんな天気のいい日に閉じこもって屋内にいるなんて罪ですよ。


毎日毎日毎日毎日毎日毎日……いっつもどんより曇り空ばかり見上げてたら鬱になります。で、こんな好天を見逃すはずがないでしょう、といっぱしにドイツ人的なことをつぶやいたりする。


それにしても良い天気だ。雲ひとつなく、目立つのは飛行機雲だけ。


辿り着いた海辺。風もなく凪の海辺。


いつか乗ってみたいヨット。こういうのを購入して世話し続ける人ってすごいな。


こんな緑地帯があちこちに散歩道として保存されている。落ち葉を踏む音が心地いい。



散歩に同行した韓国人の若いKoch。二人の会話は変な英語と中途半端なドイツ語とあやしげなドイツ語のみ。


彼の夢は自分のレストランを持つことだという。


僕の夢は…。

2011年3月1日火曜日

NDR

 先日書いたテレビ撮影での一こま。北ドイツテレビNDRの撮影風景。何種類もの包丁研ぎ器を用意してどれが有効的にとぐことができるかを検証するシーンの準備。それにしてもひどい機械があるもんだ。あれじゃ包丁が泣いてるで。


そして私にインタビュー。包丁を研ぐということ。その意味について。私の答えは以下の通りです。

「包丁に限らず仕事に使う道具はどれ一つをとっても、自分の分身であり、体の一部なのです。庖丁を研ぐ、道具を手入れするということは、自分を労わるのと同じ意味を持ちます」